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今月の話題

今からできる健康づくり
~合言葉は“ちょい足し”~

山形大学 Well-Being 研究所 行動科学部門
助教 清野( せいの ) ( さとし )

厚生労働白書(令和2年版)によると、2040 年には、65 歳の女性の約20%、男性の約6%が100 歳まで長生きするとみられています。人生100年時代が迫る中、何歳になっても自分らしく元気に過ごしたいものです。健康寿命を延ばすには、病気の予防だけでなく、体やこころの機能を保持すること(フレイル予防)が重要です。

今回の記事では、日々の生活に“ちょい足し”できるフレイル予防のポイントをご紹介します。

フレイルとは何か

フレイルとは、元気で健康な状態と要介護状態の中間の状態をいいます。例えば、「階段を昇るのがきつくなってきた(体力の低下)」「今までやれていたことがおっくうになってきた(気力の低下)」「ダイエットしているわけではないのに痩せてきた(体重の減少)」などと感じたら、それはフレイルのサインかもしれません。

健康づくりのポイントは世代で異なる

中年期では、メタボリックシンドローム(以下「メタボ」という。)と健康寿命との間に密接な関連があります。そのため、食事では食べ過ぎに注意しつつ、野菜をしっかり食べることが大切です。運動についても、脂肪を優先的に燃焼させる散歩やウォーキングなどの有酸素運動がメタボ対策として効果的です。

一方、高齢期ではメタボと健康寿命との関連が徐々に弱くなり、フレイルと健康寿命との関連が強くなります。したがって、食事については栄養不足に注意し、筋肉量を減らさないよう、肉や魚、卵などのたんぱく質をしっかり摂取する必要があります。運動についても、歩くだけではなく、足腰の筋力を維持するための筋力運動が不可欠です。

このように、高齢期では、健康づくり戦略をメタボ予防からフレイル予防へと少しずつギアチェンジする必要があります。

身体活動・運動のポイント

2024年1月に、厚生労働省から「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が公表されました。高齢者では、歩行またはそれと同等以上の身体活動を1日40分以上実践することが推奨されています。これは歩数に換算すると、1日約6千歩以上に相当します。また、この身体活動の中に、筋力運動やバランス運動、柔軟運動など、多要素な運動を週3日以上実践すること、できればその中に筋力運動を含むことも推奨されています。

重要なことは、たとえこれらの推奨値を満たさなくても、健康効果は得られるということです。例えば、毎日余分に10分間の身体活動を増やすことで、生活習慣病発症の危険性、がん発症の危険性、ロコモティブシンドローム(運動器の障害によって移動能力に低下をきたした状態)・認知症発症の危険性を引き下げることが、複数の研究結果を統合した分析によって示されています。これは、日々の「ちょい足し」の重要性を示す科学的根拠といえます。短い時間でも良いので日々の生活に身体活動・運動を「ちょい足し」してみましょう。

ステップ1:座りっぱなしを減らす

すぐに取り組める「ちょい足し」は座りっぱなしの時間を減らすことです。長時間の連続した座位行動を頻繁に中断(ブレイク)することは、腰痛予防や食後血糖値・中性脂肪の減少などにもつながります。テレビを見ている時などに、30分ごとに3分間くらい立ち上がる「ブレイク30(サーティ)」を取り入れると、結果的に椅子からの立ち座り回数を増やすことにもなります。

ステップ2:10分余分に歩く

これまであまり運動していなかった方は、1日10分間、余分に歩くことから始めてみましょう。歩数計がない場合は、10分間歩くと約千歩と覚えておきましょう。最初の1カ月間は+10分(千歩)、次の1カ月間にはさらに+10分(千歩)というように、ご自身の体と相談しながら散歩やウォーキングの時間を段階的に増やす方法もお勧めです。

ステップ3:筋力運動の「ちょい足し」がよりお勧め

散歩やウォーキングは、最も簡便な運動ですが、ウォーキングのみでは筋肉や骨に対する刺激が必ずしも十分とはいえません。図1には、最も重要な運動の一つであるスクワット運動を示しています。「ややきつい」と感じる回数が安全かつ効果的な目安です。

図1. スクワット運動
「1・2・3・4」でおしりを後ろに引きながら腰を下ろし、「5・6・7・8」で元の姿勢に戻します。これを10から20回繰り返します。両ひざがつま先より前に出ないように。安全かつ正しい姿勢でできる「椅子からの立ち座り運動」でもOK。「ややきつい」と感じる回数を目安にしましょう。

栄養のポイント

 同じ食品ばかりを食べていると、栄養素に偏りや不足が生じます。特に高齢期では、不足しがちなたんぱく質を中心として、多様な食品を摂取することが推奨されています。

ポイントとして、毎日摂取したい10の食品群を覚えましょう(図2)。この10食品群は、たんぱく質を含む①肉類、②魚介類、③卵、④大豆・大豆製品、⑤牛乳・乳製品と、ビタミンやミネラル、食物繊維を含む⑥緑黄色野菜、⑦海藻類、⑧いも類、⑨果物、そして⑩油脂類から構成されています。

ステップ1:毎日7点以上を目指す

10の食品群のうち、少量でも食べた食品群にをつけ、1日(3食)でが7つ以上になるように取り組んでみましょう。1週間継続すると自分の食べ方の癖がみえてきます。特に、たんぱく質を多く含む①から⑤にがつくよう意識して取り組んでみましょう。

ちなみに、この10食品群はおかずや汁物を構成する食品から選ばれているので、米やパン、麺類などの主食は含まれていません(食べることが前提となっています)。なお、医師や管理栄養士の食事指導を受けている方は、その指示に従いましょう。

図2. 毎日摂取したい10の食品群
1.肉類 2.魚介類 3.卵 4.大豆・大豆製品 5.牛乳・乳製品 6.緑黄色野菜 7.海藻類 8.いも類 9.果物 10.油脂類 毎日7点以上を目指す。あなたの◯の数(点数)は?

ステップ2:目安量を知る

1日7点以上を達成できるようになったら、次のステップとして1日の摂取量の目安を確認してみましょう(図3)。肉類、魚介類、いも類、果物は片手に収まる量、野菜は片手3つ分、生野菜の場合は両手3つ分が目安です。海藻類は少量、卵は1~2個程度、大豆製品は納豆なら1パック、豆腐なら半丁、牛乳・乳製品は牛乳ならコップ1杯、ヨーグルトなら小さいものを1パック程度が目安となります。油は大さじ1杯程度が目安ですが、通常の食事(例えば、炒め物やドレッシングなど)で十分に摂取できている場合が多いです。たんぱく質(肉類、魚介類、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品)が不足しないことが大切ですが、1食でこれらを全て摂取することは大変です。朝・昼・夕の3食に上手に振り分けてみましょう。

図3. 一日の摂取量の目安
「何を食べるのか」に加えて、「どれだけ食べるか」を意識してみましょう。計量器具がなくても「手のひら」を使うことで、自分の体格に合った目安量を知ることができます。肉 片手1つ分 魚 片手1つ分 卵 1~2個程度 大豆製品 納豆なら1パック、豆腐なら半丁 牛乳・乳製品 牛乳なら1杯、ヨーグルトなら1パック 野菜 片手3つ分、生野菜だと両手で3つ分 海藻 少量 いも 片手1つ分 果物 片手1つ分 油 大さじ1杯位

社会参加のポイント

約31万人の研究データ※では、社会的つながりの種類や量が多いことが、タバコを吸わない、アルコールを飲み過ぎない、太り過ぎない、といった生活習慣よりも強く長寿に影響していることが報告されています。地域には、「学ぶ」「働く」「集う」「趣味」「地域貢献」など、さまざまなタイプの通いの場があります。楽しさややりがいを感じる、自分に合った活動に参加してみましょう。

さらに元気の余力がある人は、こうした通いの場の担い手としても活動してみましょう。居心地の良い場が増えれば、自分だけでなく、地域みんなの健康や幸福にもつながります。無理なく、がんばり過ぎないことが長続きのポイントです。

※Holt-Lunstad J, et al. Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med 2010

最後に

身体活動・運動、栄養、社会参加は、独立してフレイル予防に効果的ですが、複数実践した方がより効果が高いことが分かっています。

いつまでも元気に自分らしくやりたいことや好きなことを続けていくために、フレイル予防のポイントである「身体活動・運動」「栄養」「社会参加」を毎日の生活に「ちょい足し」して、今できることから始めてみてはいかがでしょうか。

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